「末広町35番地」におけるテクスト連関
「末広町35番地」において題材とされている童話は以下の通り。
- #1 オズ
- 「オズの魔法使い」(バウム)。しかし原典とほとんど関係ない。「オズの魔法使い」の感想文で賞をもらったというだけ。
- #2 ごはんの家
- 「ヘンデルとグレーテル」。現代へのアレンジ、ではなくていい側と悪い側が入れ替わっている。
- #3 つる
- 「鶴の恩返し」。奥さんに逃げられるシリーズその1。鶴はご近所に頼まれて編み物をしている。
- #4 王様の耳はロバの耳
- 「王様の耳はロバの耳」。近所の噂に負けないいい母親の最後の一言が鋭い。こういう童話のおかしいところの揚げ足を取るのが随所に見られ、それが視点が奇抜でユーモアがあるから許される。
- #5 「靴屋」って・・・。
- 小人が靴を作ってくれる話って何だっけ。
- #6 ブレーメンの音楽家
- 「ブレーメンの音楽隊」。何がブレーメンなのか分からんが。
- #7 眠りの森で百年眠る
- 「眠りの森の美女」。上の藤棚老人の続き。美女は団地の下で百年眠っているらしい。
- #8 ふえふきおとこ
- 「ハールメンの笛吹き男」。何がふえふきおとこなのか分からんが。子供の代わりに害虫とルリ子を連れていったのだろうか。
- #9 浦島夫人
- 「浦島太郎」。浦島太郎が竜宮城から帰ってきたのは現代。
- #10 オオカミ少年
- 「オオカミ少年」。オオカミ少年シリーズその1。本当は「オオカミが来た」と嘘をつく少年の話しなのだが、ここでは「母さんはオオカミだ」ということになっていて、それが嘘か本当かというところのロジックが見事。しかも名前がケンなのは白黒アニメ「狼少年ケン」からと思われる。さらに最後も読者に対して見事な切り返し。
- #11 紋切型燐寸売之半生
- 「マッチ売りの少女(アンデルセン)」。彼女はマッチでラリっていたのだ。
- #12 花咲翁の隣人
- 「花咲かじいさん」。お隣が花咲じいさん。団地で犬を買っちゃいけません。でポチは保健所に連れていかれて桜が咲く
- #13 モモ
- 「桃太郎」。タイトルはミヒャエル・エンデの「モモ」もあるのか。子供の「僕はどうして生まれたの?」という質問にコウノトリでなく桃太郎で答える。最後の「あ・・お宝」が絶妙。。
- #14 団地の七人(とお姫さま)
- 「白雪姫」(グリム)。お隣が白雪姫。リンゴをのどにつめた白雪姫は人工呼吸で息を吹きかえす。
- #15 しんでれら
- 「シンデレラ」。ガラスの靴に合う人を探すのは、哀しき公務員。
- #16 親指ほどの人
- 「一寸法師」「親指姫」。一寸法師の姉が親指姫。
- #17 泣いた赤鬼
- 「泣いた赤鬼」(浜田廣介)。赤鬼と青鬼の再会を描く。
- #18 瘤付きじいさんも泣いた
- 「こぶとりじいさん」。続き。青鬼のところへこぶのあるじいさんが訊ねてくる。二人目だが悪いじいさんではなさそうだ。
- #19 葡萄は酸っぱいから狐は泣かない
- 「狐と葡萄」(イソップ)だがストーリーは関係ない。#13「モモ」の男の子と赤鬼青鬼が一緒に暮らしているのだが、中に鬼のいることが#16の一寸法師には分かったのか明確でなく、原典と一致しないがこの教訓には当たっているのか。
- #20 あるお姫さまのお話
- ???。架空の童話と思われる。いかにも原典がありそうなお話だが。
- #21 P.N.醜いあひるの子
- 「みにくいあひるの子」(アンデルセン)。団地で村八分の淋しさ。
- #22 「ママ、牛って大きいね」
- イソップの作品だと思うのだが。カエルがお腹を膨らませるのではなく妊娠。
- #23 裸の王様
- 「はだかの王様」(アンデルセン)。王様が裸だと指摘した子供を、無垢で正直な子供でなく、世間にある人付き合いのために必要なおためごかし、暗黙の了解という常識を理解しない、無知な子供として描く。
- #24 笠地蔵
- 「笠地蔵」。現代人は得体の知れない贈り物も、同情の施しものも、受け取らないのだ。#11のマッチ売りの主婦がゲスト出演。
- #25 手袋を買ってった
- 「てぶくろをかいに」(新美南吉)。人間の手に化けて合わせた手袋を狐がどう使うのかという誰も思いつかなかった疑問。
- #26 ゆき
- 「雪女」。奥さんに逃げられるシリーズその2。「誰にもいうなっていうのは普通当事者以外のことだろう」というロジックは見事。
- #27 断罪・七匹の子ヤギ
- 「オオカミと七匹の子ヤギ」(グリム)。オオカミ少年シリーズその2。山羊が母さんを殺す。
- #28 豆の木のてっぺん
- 「ジャックと豆の木」。団地のベランダで豆を育てる。団地住まいにはやはりマイホームの夢があるのだろうか。
- #29 うさぎとカメと息子
- 「うさぎとカメ」(イソップ)。#9の浦島夫人の家らしい。カメの親子があのレースのリターンマッチを語る。
- #30 カチカチ山のタヌキさん
- 「かちかち山」。タヌキの孫が復讐にやってくる。
- #31 さるかき
- 「さるかに合戦」。#28の豆の木の次は柿の木。
- #32 赤ずきんのお話
- 「赤ずきん」(グリム)。オオカミ少年シリーズその3。ケンちゃんの学校で「赤ずきん」の劇をすることになる。
- #33 ああ、青春の金の斧
- 「金の斧と銀の斧」。漱石の「こころ」みたいな話にしたのは見事。
- #34 羽衣
- 「天女の羽衣」。奥さんに逃げられるシリーズその3。三度逃げられる男が見もの。
- #35 赤いくつ
- 「赤い靴はいてた女の子」は童謡だと思うが、原典にはあまり関係ない。背伸びしてみる娘に自分のその頃を重ね合わせる母親。
- #36 アリとキリギリス哀詩
- 「アリとキリギリス」(イソップ)。キリギリスはアリのヒモだったらしい。ヒモから離れられたアリもまだまだ苦労する。
- #37 The mermaid is gone.
- 「人魚姫」(アンデルセン)。難しいアレンジだ。「家に帰りたがるドロシーを馬鹿じゃないかと思った」などと、#1「オズ」を受けて、この最初と最後の話を自分のことを描いていると見るべきか。それはあとがきでも感じられる。
Back