電車のお行儀

「電車のお行儀」は西鉄の車内ポスターに一条裕子が描いた作品である。 後に冊子にまとめられて無料配布された。
内容は、一般公募された電車でのマナーに関する川柳に、「わさび」のキャラクター による漫画を付けるという趣向だ。
その面白さ・笑いは間違いなく「わさび」のそれである。マナー広告であるとか 川柳によってお題が決められているといった足枷を全く感じさせないのは 一條裕子の力量であろう。

第壱話 お年寄りや体の不自由な人には席を譲りましょう。の巻
「迷う間に すんなり茶髪 席を立ち」。帯刀隆太郎67才は電車に乗っていて 老婆に席を譲ろうとしたが、一足早く茶髪の若者が席を立った。ほんの一瞬遅かった ことを隆太郎は悔やむが、そこで青年の俊敏なる行動を讃えて小話をひとつしようとする。 だが、なんと青年は聞きたくないらしい。
第弐話 喫煙は喫煙コーナーで。の巻
「喫煙は 火灯もす前に 右左」。駅で煙草を喫おうとした隆太郎は、喫煙所を探す。 あそこに煙草を喫う者がいるが、だからといって喫煙所と決め込むのは早計だ。 喫煙所の看板があるが、もしかすると無法な若者の落書ではないか。 あの灰皿に見えるものは、灰皿風のおちゃめなオブジェではないか。 駅員がここが喫煙所だというが、彼は駅員を装った通りすがりのYESマンではないか。
第参話 ゴミはくずかごへ。の巻
「缶ジュース ゴミ箱までは 君のもの」。隆太郎は隆之介に、缶ジュースを買ったらすぐにお名前シールを貼るように教えている。 そうすれば、うっかり駅に空き缶を放置しても、見付けた人が連絡してくれるからだ。 だが一つ問題があり、名前を書いた缶には愛着が湧いて捨てるに捨てられなくなってしまうのだ。 その日も隆太郎は缶を持ち帰り、「愛蔵缶No.37」として保存している。
第四話 車内での携帯電話の御使用は御遠慮ください。の巻
「ベル鳴れば 周囲の白い目 突き刺さり」。電車に中でふみがナスを耳に当てて、今日の献立について 独り言をいおうとしている。しかしそんな恥知らずなことはとてもできない。車内では携帯電話の ベルが鳴り続けているが、持ち主はそんな恥知らずなことができなくなって、ベルだけが鳴り続けている。
最終話 美しい電車の乗り方。の巻
帯刀家家族会議。議題は「美しい電車の乗り方」。電車に乗る際の心得その1 確実に駅へ行く。 その2 確実に切符売場で切符を買う。 その3 確実にオートゲートに確実に切符を通す。(略)。 その97 電車で感心な若者を讃えるために小話をしても喜ばれることはない。しかしふみの 取ったノートにはただ、「あんまり非常識なことはしない」

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